企業の情報システム構築はまず社員意識の構築から(3)

 少ない経験の中で、一番頼りにしたいのが、システム会社のプロジェクトマネージャーですが、情報システム会社もプログラマーは沢山いますが、プロジェクトマネージャーに関してはどこも人材難です。
 一番優秀なプロジェクトマネージャーは大抵「火事場となったプロジェクトの火消し」に廻っていますから、「まだ火を吹いていない」プロジェクトに廻ってくるプロジェクトマネージャーは、実はプロジェクトマネージャー初体験が多いのです。しかも、情報システム会社から派遣されるプロジェクトマネージャーにとって一番大切なのは「予算と期限を守ること」ですから、ユーザの声の収集は企業側の担当の責任だと思っています。作成された仕様書に企業の責任者の印がもらえれば、後でそれがユーザの希望を反映していないことが分かっても免責されると教育されています。
 こうして書いてみますと、何かとても「怖い話」ばかりが並んでしまいましたが、ほとんどの企業での基幹情報システム構築プロジェクトは、多かれ少なかれこのような状況で「恐る恐る」進められているのが実態だと思います。
 それでは、冒頭書きました悲劇を避ける方法はあるのでしょうか?私は唯一の方法は「ユーザ部門に当事者意識を持ってもらうこと」だと思っています。人間の習性として誰にでも共通することですが、「他人から押し付けられたこと」をやるのは気が進みません。一方、自分で考えたことについては、やってみて何か障害があっても、何とか実現しようと工夫をします。
 情報システムの構築でも同じです。情報システムに関するユーザの要望は聞き始めるととても欲張りなモノです。細かく全部聞いているととても予算の枠の中では収まりません。そうだからといって、情報システム部門で勝手にユーザ要望の取捨選択をすると、ユーザ部門には不満が残ります。
 ユーザ部門に不満が残らないためには、情報システム部門ではなくユーザ部門同士が話し合って、数多くのニーズの中から何を情報システムで実現するかを合意形成してもらう必要があります。ユーザ部門がニーズの取捨選択をするためには「基幹情報システムの構築」と言う企業にとっても投資案件の狙いと期待する効果について、全社的な合意ができていることが欠かせません。それでないと、各ユーザ部門は自分たちのニーズばかりを優先させてしまい収集が付かなくなります。最後には「声の大きい部署」「政治力に長けた人間」のニーズだけが取り上げられる結果になります。
 ユーザ部門が「情報システム構築の狙いと期待する効果」を理解できると、ユーザ部門に当事者意識が芽生えます。新しいシステムの狙いが「販売予測の精度を高めて在庫を減らす」ことだとすれば、その正否はユーザ部門の業績に直接関わってきます。システムはもはや「空気の様なモノ」では済まされません。情報システム部門から求められる仕様書のチェック作業にも真剣さが加わります。欠席しがちだった情報システムとの打ち合わせにも積極的に参加する様になります。
 話が長くなりましたが、企業の情報システム構築を成功させるために、情報システムの担当者がはじめにやるべきことは、「情報システム構築の狙いと期待する効果」を明確にし、それを全社に幅広く伝えて関係する部門に当事者意識を持ってもらう「社員意識の構築」、すなわち社内向けのマーケティング活動という極めて人間系の活動だと確信しています。最近になってインナーブランディング活動を、情報システム構築場面で利用する企業が出始めているのも、情報システム構築の人間的側面の重要さを感じている方が増えてきたのが理由だと思います。
 皆様の忌憚のないご意見コメントを頂戴できれば光栄です。 K

(この内容は、慶応義塾大学名誉教授 大駒誠一先生発行のビユツヒェルヒェン第32巻への寄稿原稿に加除編集したものです)

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投稿者:KAINOSHO [ 管理者編集 ]

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